全身麻酔後に診断されたたこつぼ型心筋症の1例
岡山労災病院麻酔科
○瀧川 朋亨、時岡 宏明、近井 高志、福島 臣啓、石津 友子、田中 利明、香曽我部 義則
たこつぼ型心筋症は左心室心尖部を中心に広範な壁運動の可逆的な収縮低下と対照的に心基部が過収縮を起こす疾患で、左心室造影像がタコツボに似ることから命名された疾患である。我々は、全身麻酔中に原因不明の頻脈を呈し、術後にたこつぼ型心筋症と診断した症例を経験した。
<症例>症例は80才女性で、平成14年7月8日交通事故にて左脛骨と左尺骨の骨折を受傷した。特記すべき既往歴、合併症はなかった。麻酔の危険因子は、呼吸機能低下(肺活量1.45L、1秒量1.02L、PaO296mmHg、PaCO239mmHg)と貧血(Hb8.1g/dl)等が挙げられた。心電図は洞性頻脈であった。7月18日全身麻酔下にて観血的整復術が施行された。手術室入室時より心拍数100から110の洞性頻脈を認めた。麻酔は酸素―笑気―セボフルラン―フェンタニルで行った。頻脈は術前よりの貧血、脱水が原因と考え、輸血、輸液を行うも心拍数100以上が続いた。収縮期血圧は130mmHg前後で大きな変動はなかった。手術時間3時間42分、出血量50ml、尿量180ml、濃厚赤血球輸血2単位、漿質液輸液2000ml、膠質液輸液500mlにて手術は終了した。術中四肢誘導での心電図は変化がなかった。術直後に頻脈と尿量低下の原因検索のため心エコーを行った。乳頭筋レベレから心尖部にかけてakinesisを伴う前壁中隔の著明な壁運動の低下を認めた。12誘導心電図では、V3〜6に陰性T波を認めた。異常Q波は認めずCPK-MBの上昇は軽度であったが、急性心筋梗塞を疑いニトログリセリンの投与を開始した。また、心不全予防のため利尿薬投与を行った。術後1日目、心エコーによりakinesisは一部改善傾向を示したが、心尖部を中心とした著明な壁運動低下と対称的な心基部の正常な壁運動が続いた。、心電図で異常Q波とST変化がなく、CPK-MBの増加がないことから、たこつぼ型心筋症と診断した。その後心機能は徐々に回復し、術後3日目の心エコーで壁運動も正常化した。しかし心電図の陰性T波は持続した。自覚症状は周術期いずれにおいてもなかった。
<考察>全身麻酔中に頻脈となる一般的な原因が否定的な場合、心不全により心機能の低下を頻脈で補っている可能性がある。本症例は、手術室入室時より頻脈であったこと、自覚症状がなく術中心電図異常を検出できなかったことなどから、どの時点でたこつぼ型心筋症が発症したのかは明らかではない。たこつぼ型心筋症の発症誘因として精神的ストレスの関与、外科手術、高齢女性などを挙げている報告も多く、本症例もこれらに一致する。
<結語>全身麻酔中にモニター心電図では虚血性変化を呈することなく原因不明の頻脈が続き、術後にたこつぼ型心筋症が判明した症例を経験した。たこつぼ型心筋症は一般には予後良好の疾患であるが、死亡例も報告されており、注意が必要である。
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